アメリカ議会では、正式に費用計上した範囲でしか税法上損金算入しないように税制を改訂する法案が提出されている。
また国際会計基準委員会(IASC)では株式報酬に関する国際会計基準制定の議論が進んでおり、2003年中にも実施される予定である。
イギリスでは会計基準議会(ASB)が、いち早く2004年から未上場を含むすべてのイギリス企業に対して、ストックオプションの費用計上を義務づけることを決めた。
(3)企業サイドの自発的対応こうした議論と並行して、アメリカでは政府の規制強化を待たずに多くの企業が自主的にストックオプション制度の改革や情報開示を始めている。
表224は2002年にストックオプションを正式に費用計上することを発表した主要企業のリストである。
また、多くの企業がストックオプシヨンの付与条件をより厳格なものにし始めている。
その先駆的な例としては、モンサントが1998年に採用した方式があげられる(表225)。
ここに示されるように、自社株保有とセットでストックオプションを交付する考え方が定着し始めている(コラムを参照)。
こうした動きと歩調をあわせて役員報酬に対する株主側の監視も厳しくなってきている。
最近の英米大企業の株主総会では、役員報酬や退職後の特典に歯止めをかける株主提案が続出し、一部の企業では可決されている。
表226はその主要な例を示している。
一部の大企業ではトップあるいは引退したCEOから、報酬の一部を返上する動きも出ている。
回日本でも急速に普及するストックオプション制度わが国でも株主価値重視の普及にともなって、経営者および従業員に対する報酬制度が大きく見直され始めている。
とりわけ2002年から2003年初めにかけて、戦後日本の「人本主義」経営を支える報酬制度の基本であった「ベア・定昇方式」を公式に放棄する企業が続出した。
なかでもT自動車の労働組合が2003年初めにベア要求を見送り、戦後長年続いた「春闘」に幕を引き、産業界全体に大きなショックを与えた。
このようにわが国企業の報酬体系がようやく成果主義、パフォーマンス・リンク制に向けて本格的に移行し始めるなかで、ストックオプションの利用も急速に進んでいる。
わが国では1997年に限定的な形ではあったが、正式にストックオプションが解禁された。
当初導入した企業の大部分はベンチャーや、社員の流動性の高いソフトウェア関連企業であった。
しかし、その後大企業を含めて幅広い業種で導入されていった。
大和証券5MBCの調べでは、ストックオプションを導入した企業は、96年度26社、97年度141社、98年151杜と増え、99年度には新たに200杜ほどが導入した。
こうした動きにさらに弾みをつけたのが、2002年4月に施行された商法改正である。
これによって新株予約権が認められたのとあわせて、ストックオプションに関する従来の制限が撤廃されたのである。
同時に、ストックオプションの上限や対象者、権利行使期間などの制限が一切なくなり、これに関連した株主総会の決議事項も簡略化された。
これを受けて2002年には、大手企業、新興企業を問わず、さらに多くの企業がストックオプションの導入に踏み切り、ストックオプションを付与する対象を全社員に広げるところも出てきた。
アメリカに遅れること約10年、わが国でもパフォーマンス・リンクの報酬制度、とりわけストックオプションが本格的に導入され始めたのである。
アメリカの1990年代の経験をふまえて健全な形での利用・発展が望まれよう。
固望ましいインセンティブ・パッケージの模索株主価値経営の基本は、雇われ経営者も従業員もオーナー的な立場に立って、一丸となって価値創造を推進することにある。
そのための仕組みが成果主義のインセンテイブ制度であり、ストックオプション制度はその手っ取り早い手段として普及した。
しかし、ストックオプションは経営者に対してダウンサイド・リスクを負わせずに、アップサイド・ポテンシャルのみを提供するインセンテイブ手段である。
しかも権利を行使して速やかに換金すれば、事実上、企業のオーナーとして株主と同じ立場のリスクを負うこともほとんど必要としない。
このため、ストックオプシヨンだけを単独で付与することは、短期の株価最大化経営につながりやすい。
つまりストックオプシヨンを単独で付与しでも、必ずしもそれが株主の長期的な利益に合致した経営をおこなわせるインセンテイプになる保証はないのである。
むしろ経営陣に自己資金を投資しでかなりの額の自社株を保有させることを基本に、プラスアルファで長期売却制限付きのオプションを与えるほうが望ましいと考えられる。
図223は、伝統的な報酬パッケージとオプシヨンの様々な組み合わせの可能性を示すものである。
同図の横軸の右方向に進むに従って、個人の立場は雇われ人からオーナーの方向にシフトし、それにともなって報酬のパッケージの中身も変化していくべきだと考えられる。
そして、そのすべてのパッケージに対して、プラスアルファのインセンテイブとして、弾力的にストックオプションを上乗せしていくという位置づけが望ましいといえよう。
次ページの「コラム」で紹介したガースナーIBM前会長が導入したインセンテイブ制度の考え方が参考になるだろう。
ガースナーによるIBMの報酬体系の改革瀕死のIBMを見事に再生したルイス・ガースナーは、その著書「巨象も踊る』の中で1MBの報酬体系の改革について、次のように述べている。
「古い」IBMは、報酬に関する考え方がきわめて便直的であった。
おそらく、そのほとんどは、1960年代、70年代の偉大なIBMを築いたトーマス・ワトソン・ジュニアの経営哲学に由来するのではないかと思う。
当時IBMの業績は絶好調だったのだから、この制度が効果的でなかったというのはばかげている。
私の就任時の制度を簡単に紹介しよう。
第1にどのレベルでも報酬の大半を絵与が占めていた。
ボーナスやストックオプション、部門の業績と連動した報酬はほとんどなかった。
第2に、ほとんど差がつけちれていなかった。
・業績が基準に逮しないものを除いて全社員に年次昇給が与えられていた。
・成績上位と下位の社員の聞で、年次昇給額にほとんど差がなかった。
・昇給率はその年の平均前後の狭い幅に抑えられていた。
例えば予算が5%増加した場合は、実際の昇給率は4%から6%の聞に落ち着いた。
・ソフトウェア・エンジニアやハードウェア・エンジニア、営業担当者、財務担当者などの専門職で、市場での需要が旺盛な職種であっても、全社員に等級ごとに同じ給与が支払われていた。
第3に、福利厚生に力点が置かれていた。
IBMは家父長的で、あらゆる社員への支援をふんだんに提供していた。
年金、~療給付、社員用のカントリー・クラブ、終身雇用の保証、豊富な教育機会。
どれをとってもアメリカ企業で一番だった。
(中略)報酬制度に関して4つの主要な変更をおこなった。
この点については後述するが、背後にある哲学は過去のものと基本的に違っている。
それを篇潔にまとめたのが次の表だ。
これらはすべて業績に応じた報酬の考え方であり、忠誠心や在職期間に応じた報酬ではない。
そしてすべて差別化に関わっている。
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